先日発売になったメイカーズ。
個人的に気になる領域だったのでお借りして読みました。
感想というよりはメモの形で、引用しながら大事だと思ったところを以下まとめます。
銃・病原菌・鉄が食糧生産による人類の変化を書いたように、本著は工業化が起こることによって何が変わり、だからデジファブが起きることによってこうなるんじゃないか?という話が書かれている。その点は、未来学に興味がある自分としては面白かった。
ただ、デジファブによってどう変わって行くのか、についてはテクノロジー的に何が可能になるか、だけじゃなく、もう少し踏み込んでもらえたらより良かったかな。全体としては、起業とかデジファブとかしたくなる一冊。
ただ、デジファブによってどう変わって行くのか、についてはテクノロジー的に何が可能になるか、だけじゃなく、もう少し踏み込んでもらえたらより良かったかな。全体としては、起業とかデジファブとかしたくなる一冊。
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●p16 bit vs atomの話
しかし、ぼくらはアトムの世界、つまり、場所やモノの存在する現実の世界に生きている。(略)広義のデジタル経済は、およそ20兆ドルの売上規模があるという。同じ調査で、ウェブを含む経済全体はおよそ130兆ドルの規模と推定されている。
クリス・アンダーソン氏は冒頭より、「ビットとアトム」という表現でWEBやデジタルによる経済とモノ経済を比較します。ここでいうデジタル経済の定義がどこまでかチェックせずに本を持ち主に返してしまったのですが、世界規模で多めに見積もっても、15%程度の経済効果しかもたらしていないということになります。
気になったので自分でも調べてみました。
-OECD Internet Economy Outlook 2012

こちらの資料のp.35を参考にすると、世界全体で考えたとき、ビジネス全体のVAのうちICTの占める割合は8.5%くらい。p.283あたりを見てみると、USでは、全GDPの内インターネットによってもたらされたGDPは8%程度しかありません。
-ICT産業の国際競争力強化に向けた提言-NRIコンサルティング事業本部 情報・通信コンサルティング部
http://www.nri.co.jp/opinion/r_report/pdf/201005_jouhou_tsushin_2.pdf
こちらの資料のp5でいうと、世界全体のGDPの内ICTの占める割合は2010年あたりで4%しかありません。
-第4章 情報通信の現状
http://warp.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/286922/www.johotsusintokei.soumu.go.jp/whitepaper/ja/h21/html/l4212000.html
でもこちらの資料を見ると、およそ30%が情報通信産業となっています。
どれが正しいのかはわかりませんが、資料の数でいうと「ICTの経済全体に対する貢献度は10%前後」が実際に近そうですね。
●p32 メイカーブームメントの特徴
- 1.デスクトップのデジタル工作機械を使って、モノをデザインし、試作すること。
- 2.それらのデザインをオンラインコミュニティで当たり前に共有し、仲間と協力すること
- 3.デザインファイルが標準化されたこと。おかげでだれでも自分のデザインを製造業者に送り、欲しい数だけ作ってもらうことができる。また自宅でも、家庭用のツールで手軽に製造できる。これが、発案から起業への道のりを劇的に縮めた。まさに、ソフトウェア、情報、コンテンツの分野でウェブが果たしたのと同じことがここで起きている。
メイカーズとは、上記のような特徴を持ったモノ作りをする人たちのこと。
●p46 ボトムアップイノベーション
無数の個人によるボトムアップのイノベーションが、いままさに生まれている。初期のPC愛好家からウェブコミュニティの参加者まで、ビットの世界では個人がイノベーションを起こしてきた。
ICT分野では、オープンプロセスで個人が集まり、コミュニティが生まれ、イノベーションが起こってきました。PCのときも、インターネットのときも。
●p54 産業革命の意味
産業革命が人々の日々の営みの中でどんな意味を持つべきなのか考えてみるべきだ。
この問いかけは未来を考える上でとても重要なことだと思っています。
1つ1つの変化が、消費者の日々の生活にどんな意味を持ち、ビジネスのバリューチェーン、サプライチェーンの中でどんな意味を持ち、社会における人間の生産価値がどう移り変わっていくのか。
単なるSFとしてではなく、歴史を振り返り、人類の歴史的な変化のポイントでは一体何が起こり、どういった意味合いを持っていたのか、という視点を持った上で新たなテクノロジーによる変化を想像し、自分たちの現代の生き方を再構築していなかなくてはいけない。
●p51工業化のもたらしたもの、衛生状況改善の価値
「工場労働にはさまざまな悪い面があったにしろ、工場の近くに住むことのメリットの方がはるかに大きかった。」
- 工業化⇒効率化⇒製品が安くなる⇒製品が国全体に広がる
- 工業化⇒収入増加⇒栄養摂取状況良好
- 工業化⇒安い清潔な衣服が手に入る⇒健康
- 工業化⇒農村から工業都市⇒土壁の小屋から、湿気や疫病を遮断するレンガ作の家になる⇒清潔健康
- 工業化⇒農村から工業都市へ移動⇒医者や学校などの教育福祉資源にアクセスが可能に
- 工業化⇒工場増加⇒農業より綺麗で健康的な環境⇒清潔健康
- 工業化⇒毛織物から綿へ⇒洗濯乾燥が楽⇒清潔健康
●p66 過去の工業化は、現在のIT化と同じ夢を人々に抱かせた
「機械の普及によって、イギリスでは大多数が農業に従事していた時代が終わった。(略)そうした仕事は、土地にも地主にも結びつきのないものだった。家庭内で働く人たちは、より自立し、経済的な行き先を自分でコントロールできた。(略)少なくとも労働者は自分で時間を管理できた。それは起業につながる道だったが、本当に差別化されたイノベーションを生み出すまでには至らなかった。」
これ、最近のノマド論と同じ構造だと思いませんか?自分の生活に焦点を当てれば、自由な時代になったかもしれないけれど、それでは新しいものは生まれない。
●p146 コミュニティとオープンソフトウェアによるビジネス
メイカーズが行うビジネスは、
- 開発すべてがマーケティング
- 最初からグローバルで戦う
- コミュニティはマーケティングチャネルであり顧客サポート
●p183 安い労働力へと向かうグローバルな貿易は終わる
「オートメーションの占める割合が増えて労働力に依存する部分が減れば、人件費の低い国で生産する意味はあまりなくなる。(中略)ロボット工場の台頭によって、これまで数世紀ものあいだ続いてきた、安い労働力へと向かうグローバルな貿易の流れは、終わりを迎える可能性がある。」
著者はもちろん、すべての新興国への生産工場移転が終わるとは言っておらず、生産規模によって今と同じように新興国への生産移転を続けるビジネスもあると説明しています。ただ、すべての製造業が新興国トレンドにあるわけではないと。
メイカーズの生産規模が小さいと、オートメーション化するためのランニングコストが規模の経済を利用しなくとも低くなる状態まで、機械の性能及び生産コストが下がらなければ採算が合わない気もしますが、そのバランスさえ取れれば、うまく機能していくのでしょう。
●p198 メイカー企業は雇用を創出できるのか?
ウェブを利用したメイカーモデルの上に成り立つ企業には、それができる。なぜだろう?
「まず、ほとんどのメイカー企業はオープンコミュニティから始まるため、ネットワーク効果による高い成長の可能性があらかじめモデルに組み込まれている。コミュニティは、より迅速で、より安く、より高度な製品開発プロセスや提供するだけでなく、より安く、より効果的なマーケティングを可能にする。(略)
次に、ウェブを土台にしたこれらの企業は、低価格のサプライヤーを見つけることから、請負業者を使ってバーチャルに製造することまで、すべてにおいてウェブを有効に活用する。(略)
さらに、こうしたオンライン企業は、生まれた瞬間からグローバルだ。彼らは国境を越えてニッチ市場に製品を販売している。」
次に、ウェブを土台にしたこれらの企業は、低価格のサプライヤーを見つけることから、請負業者を使ってバーチャルに製造することまで、すべてにおいてウェブを有効に活用する。(略)
さらに、こうしたオンライン企業は、生まれた瞬間からグローバルだ。彼らは国境を越えてニッチ市場に製品を販売している。」
ここまで言い切られると、挑戦したくなりますよね(笑)
●P203 エコノミックガーデニング
細かい引用が出来ないのですが、検索したら下記資料が出てきましたので、リンクを貼っておきます。
-NTTデータ研究所の考える日本版エコノミックガーデニング
http://www.keieiken.co.jp/services/community/img/eg.pdf
●p207 メイカーズの成功例:スパークファン
- 入手困難な部品を販売する小さなウェブストア(エレクトロニクス部品を取り扱ってる)
- 物価の高いコロラド州ボールダーに会社がある
- どうやって低コスト製品と戦ってるのか?⇒「オートメーション、顧客や彼らのニーズへの深い理解、そして社員による日々のブログやチュートリアルの周辺に築かれたコミュニティ」
- 「安い労働力を見つけることだけが製造業の成功要因ではないことを証明している」
- 「デザインインカリフォルニア。メイドインチャイナ」なのだといわれる。こういう現状がある中での成功。
●p208 メイカーズの適正生産規模
「要するに、数百万個単位ではなく数千単位で販売される特殊な電子部品なら、アメリカでも製造することは可能なのだ。」
●p210 インダストリアルコモンズ
ピサノとシーは、イノベーションを維持するための集合的な開発、エンジニアリング、そして製造能力といった、インダストリアルコモンズを積み上げること重要だと述べている。
「彼らの販売するツールが周辺企業をより強くすることが、いちばんの効果だ。言い換えれば、彼らは新しい雇用を生み出すだけでなく、新しい企業をも生み出すのだ。」
スパークファンは、そうした新たな産業のインダストリアルコモンズの集積地となっている。


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