4月からいまの会社で働き始めて、仕事しながら本読んでみたり、ほかのリサーチャーさんのお話を聴いてみたりして、リサーチについての考えがまとまってきたので残します。
いわゆるマーケティングに興味あるひとたちからは少し離れてしまうかもしれないけれど、マーケティング・リサーチに興味を持ってる学生さん(あまりいなそうだけど)には少しはお役に立てるかなと思いますので、どうぞ御一読くださいませ。
(もし玄人の方でご覧になられてる方がいらしたら、アドバイスいただけたら嬉しいです)
■人間はとてもいい加減な生き物
ラップアップしてしまうと、ぼくがマーケティング・リサーチに対して思っていることは一つで、「人間はいい加減な生き物なので理性的な調査をしても意味ない(かもしれない)よ。だからそういういい加減の人間の考えてることを(より)正しく吸い取ることのできるリサーチにこそ価値があるし、そういう手法を開発したり地道なところで工夫したりすることが一番楽しそう。」ということです。
インターネットが出てきて、誰でも「リサーチ」がかけられるようになったり、安くて早いWEBリサーチの比率がグワーっと伸びてきたりしてるけれど、結局言語や人間の意識的思考に頼る調査のあり方は基本的に変わっていません。
だから如何に本音を言わせるか、無意識下にある思考を引き出すか、とかっていう工夫や、ノンバーバルな手法の開発の必要があると思っています。
そうしないと、表面的なことしかわからない。人間は企業の調査に答えるために生きてるわけではないですから。
たとえば
「このAという車ほしいですか?⇒はい、いいえ」
という問いがあったとします。
その結果80%のひとが「はい」と答え、残りの20%のひとが「いいえ」と答えました。
このリサーチ結果を見て、Aという車を市場に出すか出さないか判断しろと言われたら、GOサイン出しますよね、普通。
でももしかしたらこれ、「このAという車はほしいですか?⇒はい(お金はないから買わないけど)」という回答かもしれません。もしそうだとしたら車は売れない。
これはすごく簡単な例で、むしろそんな調査票作っちゃだめなわけですけど、ぼくらが気付いていないだけで、そういう齟齬が作り手と読み手で生じてることってたくさんあると思うんですよ。こんな風に言語解釈は不安定で、前提とするにはもろいものなんだと思うんです。
しかもこれからは日本の会社だって同じ日本人に対してでなくどんどん新興国で調査していく時代なわけですから(海外の調査会社はもう世界中に支社があります)、余計無意識下の前提が牙をむく。
「調査なんて本当に必要なの?成果出してるの?」
そんな視点を下記3冊の本が教えてくれましたと。
■エスノグラフィー
だからそうではなくて、そういう前提全てとっぱらった状態でできる調査がしたい。
人間のいい加減さに引っ張られやすそうな定量調査は最終的にやりたい調査ではなく、まだそのいい加減さをかいくぐって消費者のインサイトに近づけそうな定性調査をどちらかというとやりたい。
でももっともっとさら地からの調査みたいなものに憧れるし、途上国で、営利活動にも非営利活動にも役立つリサーチができるようになりたいと思っているぼくとしては、エスノグラフィーという手法が今のところ一番気になっています。
エスノグラフィーってまさに「表面的な事象ではなくてもっとディープな消費者の考えを汲み取るリサーチ」なんです。
どういう調査かというと観察する調査です。
P&Gが中国の内陸の経済的に貧しい層のひとたちのお家にお邪魔して女性の美意識について調査したりとか、サムスンには「1年間有休で現地で生活してこい」っていう制度があるとか、花王さんの例とかたぶんもっとたくさん事例はあると思うのですが、「現地のひとたちの生活に溶け込んでそこからゼロベースで消費者の嗜好、思考をじっくり時間をかけて探る調査」という認識を自分はしています。
こちらの記事(「花王のエスノグラフィーとカネボウのニューロマーケティング。」―Beauty Science, Beauty Marketing.)がぼくの説明なんかよりも100倍わかりやすいと思うのでご覧ください。
ちなみに、ぼくがこのエスノグラフィーという調査に興味を持ったきっかけはこの本なんですが
アフリカのマリで研究をしていた文化人類学者の方が書いた本で、浅い質問しかできない、調査側の仮説や前提がある程度正しくないと意味をなさない、定量調査ではわからない(と思う)ことが次々と判明していくんです。
(どういうことが判明していくのはについてはこちらやこちらの記事に書いてありますのでぜひご覧ください。)
しかしながら、実際エスノグラフィーはメソドロジーとして確立しようがない方法だし、お金も時間もかかるし、「エスノグラフィー万歳!」とか、そういうわけにもいかないですけれど、博報堂が去年からエスノヴィジョンという手法を提唱したりしてるので、出遅れてはいるけど、日本でも注目されてる手法であることに間違いはないと思います。
ぼくが一端のリサーチャーになる頃にどうなってるか全くわかりませんけどね(笑)
■さてさてではこれから何をしていこうか
まずリサーチャーとして日本にずっといて、日本企業相手に日本市場での調査だけしていくのは難しいだろうと思います。実際結構小さいところは潰れてるみたいですしね。
理由としては二つあって、
まず業界としてマーケティング・リサーチの市場も小さくなるだろうから、どこの会社も基本は大変なわけで、なんとかリサーチ部門を内部化してる/するだろう。
たとえば調査が必須な広告業界でいうと、電通は電通リサーチがあるし、博報堂は2008年に調査会社を子会社化してるし、調査できる場所を確保してしまえばあとは自社でなんとかできるんじゃないのっていう動きが、コスト面を考慮して起きる/起こっている。(調査をするのとできるのは違います)。
二つ目に、上と同じ考え方でいけばMROC(Marketing Research Online Community)はそういう調査を内部化できる場所だと思うし、そうでなくても自社で消費者コミュニティを作ってしまえばいい(内部化という観点で言えば、昔からネットグルインや掲示板グルインというものがあるそうです)。ジャンプでいま連載中のバクマンの七峰くんの会社みたいなものをオンライン上に作るイメージをぼくは持っています。
アットコスメなんかもう化粧品ユーザーやヘアケアユーザーの集まる場だし、Facebookのグループのようなものを使ってもオンラインコミュニティは作れそう。
それからCSの調査なんかであればTwitterでやれないこともなくて、かまどかのアカウントはPRとCSの調査をしているんだと思ってます。
というところで、海外マーケットのリサーチもしくはインバウンドで日本マーケットでの調査に対応できるようにならないと大変かなぁと思ってますと。
ただ、リサーチの仕事って会社ではなく個人にノウハウが溜まっていくので自分が頑張りさえすればそこそこ価値のある人材にはなれそうな気がするので、もうやるしかないなぁという感じで。
じゃあ何をがんばるんじゃという話ですが、結局調査はそれぞれの手法に対してそれぞれの役割分担があるし、実行するフェイズやシーンがわかれているので、なんでも勉強・経験して、一通りの調査手法についてはわかるようになる必要はあるかなと思っております。
なので、最近統計の勉強を始めました。基礎固めつつ、Rツールを使えるようになりたいなぁと妄想しています。会社によっては独自ツールを開発されているかもしれませんが、将来的な自由度を考えると、会社のリソースに頼らずに調査できる能力も大切な気がしているので、フリーツールをチョイス予定。
だれかお勧めのブログ・本などなどありましたらぜひご教示ください。
あとは可能な限り早く、自分の関わりたい現場に飛び込む必要はあるなとひしひし感じているといったところです。
■参考になる本まとめ
・上の2冊は、過去の事例を引用して、マーケティング、特にマーケティング・リサーチは本当に意味のあるものなのか?という問題提起をしてくれる名著です。とてもとてもお勧めです。軽々しくマーケティングとか口にできなくレベルです(たぶん)。
・3冊目はもうぼくこのブログで紹介しすぎなので割愛します(笑)
・4冊目は上述した通りです。こちらだけ洋書なのですが一読の価値はあると思います。
■参考になる記事まとめ
記事中紹介しておりませんが、えとじやブログはとてもとてもお勧めです。
・実はとっても難しい、グループインタビュー - 調査方法の選択 えとじやK。
・美味しくないおもてなし料理になんと言う?~質的調査の落とし穴 えとじやK。
・エスノグラフィを活用した企業イノベーションコンサルティング専門チーム 博報堂「ETHNOVISION(エスノビジョン)」発足、活動開始
・花王のエスノグラフィーとカネボウのニューロマーケティング。
・【スタディー】「貧困問題」などと言うけれど、実際には何が問題なのか①「食」編―『Dancing Skelton』より
・【スタディー】「貧困問題」などと言うけれど、実際には何が問題なのか②「病」編―『Dancing Skelton』より
・日本版MROCの離陸: MROCに対する理解不足と誤解




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